2011年01月05日

東京宝塚劇場 宙組公演 「誰がために鐘は鳴る」 感激!=感動!=観劇記

2011年の東京宝塚劇場は、
ヘミングウェイの名作「誰がために鐘は鳴る」
で幕を開けた。

主演のロバート・ジョーダンは「大空祐飛」、相手役のマリアが「野々すみ花」
橋梁爆破の任務を帯びて山岳地帯に潜入したロバートとそこで出会ったマリアとのわずか4日間の極限の恋。

トップ就任後、名作「カサブランカ」のリチャード・ブレイン、TRAFLGARのネルソン提督と着実に演技力をつけ存在感を増してきた祐飛。相手役の野々すみ花の演技力は、愛音羽麗主演の「舞姫」のエリス、壮一帆主演「オグリ」の照手姫、「銀ちゃんの恋」の子夏など、すでに折り紙つきである。

むすめ役すみかのこの役にかける意気込みは、乙女の命ともいえる髪をショートカットにしたところから始まっている。
マリアは、ファシストたちの辱めによって髪を切られるのだ。その切ない過去を共有することからすみかは出発している。

時代背景もストーリーの流れもしっかりした名作を下敷きに、演出も練られ、山岳地帯の舞台装置も工夫されている。
第一幕から第二幕へと、1日目、2日目、3日目、4日目と流れていく、恋と愛の深まりは、徐々に感動の中に客席を包み込んで行く。
「今、今、今、・・・・」の二人の愛が高まり行くシーン。
死を覚悟したロバートが、あなたの中に自分がいて、あなたが生きるのは自分が生きることとマリアを生きて行かせようとするシーン。
そして一人銃口を迫り来るファシスト軍に向けて、マリアの無事を祈るロバート。
恥ずかしくも、感涙とともにあらぬ音をたててしまい、隣の家内の注意を受ける。

舞台は第二次大戦中の内戦のスペイン、ファシスト軍と戦う共和国派のゲリラの山岳地帯に展開する。祐飛扮するロバートは国際義勇軍に参加したアメリカ人の大学講師。インテリゲンチャーとして、強固な思想性により従軍し、参謀本部より特命を帯びて、敵軍の支配する背後の山岳地帯に潜入し、マリアと出会うところから物語は始まる。

一方ゲリラたちは、それまでのスペインの市民・労働者としての生活の延長で、内戦に否応なく巻き込まれ戦わざるを得なくなった者たち。宝塚ならではの舞台で、それなりの美しさと品位は保っているものの、原作ではもっと野卑で直接的で猥雑な言葉が飛び交う。そのような戦場でロバートが見つけた気高き少女マリア。いわれなき恥辱の過去から逃れられなくも純真で一途なマリア。すべてをロバートにささげるマリア。少女の敵ファシストたちへの憎しみと自らの愛の不確実な行方に決然と立ち向かわざるを得ないロバート。五月に積もる季節はずれの雪。ロバートの私のかわいいうさぎさんマリアとの瞬時。そして「今、今、今、・・・・」
ロバートを「イギリスさん」と呼び、上意の戦術や、マリアとの恋の進行に対しても様々な複雑な感情を持って相対するゲリラたち。その中心人物が本公演で退団する専科星原美沙緒の演ずる「パブロ」と、京三紗の「ピラール」。
敗北の予感と、逃亡への渇望と、現実の利得と、その一方、共和国戦士として戦ってきた名誉と、亡くしかけた尊厳と、揺れ動くパブロ。さすがは「ほっしゃん。」この役は、今の宝塚では唯一は間違いなし。
さらに共和国に忠誠を誓い、ロバートの手相に見た不吉な将来を打ち消しながら、ロバートを全面的に信頼する妻のピラール。この二人の重厚な演技が全体を引き締める。
ピラールは、よくよく難しい役だ。女性であり、過去は華やかな恋愛を経験し、それを捨てたかのように見えてしかしその夢を捨てきれず、揺れ動く夫パブロより強固な意志を持ちパブロに代わって仲間をまとめ、戦闘場面では男勝りの働きをする。でいながら妻として兵站として食事・兵糧の一切を仕切り、さらに母のようにマリアに愛情を注ぎ、その恋の行方をマリアに指南する。厚くて深くてこのような女性がいただろうか。京の演技もさることながら、深みをどれだけ出しても出しきれない深い役柄だ。
二人の愛に欠かせないもう一人の人物が、蘭寿とむの演ずるアグスティン。マリアにひそかに想いを寄せていながら、外人部隊のロバートの深い思いを理解し、作戦での全面的支援と、二人の恋の成就のために身を削る覚悟を決める。
蘭寿の好演も次期、花組トップ就任への期待を高めるものだ。

ゲリラの親分、風莉じんのエル・ソルドも存在感あり。いい役作りだ。その妻サラ(鈴奈)。腰の曲がった案内役などの老戦士アンセルモ(珠洲)も味のある演技。
北翔のアンドレスもしっかり支えている。

何より、宙組がまとまって仕上げた大作。
組長、寿つかさに敬意を払う。すっしい、ありがとう。
そしてもともとの柴田侑宏先生の脚本がすばらしいのだと思う。
本がよくなければ、光る生徒が演じても浮かばれない。
脚本がよければ、演出も光りやすい。キムシンありがとう。
宝塚の財産として、この作品を大切にしてほしい。

大作一本ものの常として、ショーやレビューのファンには少々物足りなさが残る。
しかしそこは我慢してもらおうではないか。
今度の作品では、スペインのダンスの場面で、裾をはためかせながらむすめ役さんたちが銀橋を駆け抜ける。その熱風が客席の顔面に押し寄せる。その感覚、至福のときである。

観劇当日、私と妻と、友人夫妻と、何人かの関係者の皆さんと一緒に東京タワーの麓の芝とーふやうかいで食事を楽しんだ。

うかいの一階にラウンジがある。
そこにfall in love という名前のお茶がある。
fall in loveは、標高700~800メートルのところで、
fall in love grandは、標高1200メートルのところでとれる茶葉が原料という。
ちょうど、紅茶と緑茶の中間のような味がする。
山岳地帯とfall in love 。まさにこの日のためのドリンクである。
祐飛とすみかに乾杯!!
宙組のすべての皆さんに乾杯!!
                      2011年1月 宝塚観劇のあとで。
                      シゲニー・イートン

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