2011年04月24日

宝塚花組東京公演「愛のプレリュード」~「サンタモニカに吹く風」~

花組トップ真飛聖のサヨナラ公演
                            
今年の東京公演は1月宙組の「誰がために鐘が鳴る」、雪組の「ロメオとジュリエット」と、大作、名作が続いた後、真飛の退団公演として準備されたのは、本公演初演出の鈴木圭の作品だった。

多くの命が大震災によって失われ、そのチャリティ公演として3月25日に幕が開いた。真飛聖が連日終演後の劇場ホールに立って義捐金を募るという状況の中で、命の尊さを訴えるというそのために書かれたような感銘を受ける作品であり、鈴木圭の力のこもった東京宝塚劇場デビューとなった。
 真飛の演ずる男、フレディは、男から見てもああありたいと思う男。自らの命の不確かさと向き合いながら、人の命を守るために、その不確かな自らの命を懸ける。それをまた、定式ぶった理想や理念ではなくビジネスとして淡々と遂行する。そして、東日本大震災に全国から多くの義捐金が寄せられるその先頭に真飛が立っているように、自らの母への愛を機縁にした福祉施設への寄付へとつながっていく。
 久しぶりに見るスケールの大きな男として、真飛の演技が光る。
 そして、トップむすめ役との愛物語が縦糸とするならば、壮一帆の演ずるジョゼフとの友情が横糸としてそれと織り成すように舞台を盛り上げていく。大きな正義感に燃えた最初の同士的友情、銃弾に倒れた真飛の奇跡の再起、現実社会に対する無力からくる拝金への転機、そこからもう交わることの無いと思われた再会、そして極限状況での同志的友情の復活、命を賭けた男同士の色の濃い友情が描かれている。
 研究者ドイルの令嬢、蘭乃はなの演ずるキャシーとのテンポの良い縦糸も楽しい。
 この科学者の生き方に対する命を大切にするアンチテーゼとしての生き方がまた今の原子力被害の苦しみの中から生きていかなければならない多くの日本人、また世界共通の課題と重なる。
 さて、このせっかくの作品自体を褒め称えるべきなのに残念なのがタイトル。
 「あの真飛の退団公演、よかったよね。」と何年か後のファンの記憶に残すには、「愛のプレリュード」はあまりにも記銘力がうすい。一般的過ぎてショウのタイトルのようである。作品の中で使われた歌の題名「サンタモニカに吹く風」をそのままタイトルにした方がよかったと思うのは多くのファンの気持ではなかろうか。サンタモニカの街角から始まるこの作品の主要な場面、このテーマ曲の歌詞そのものである。
 もし再演の機会が訪れるなら、改題でお願いしたいところである。また、充分再演にふさわしい作品である。
なお、本公演で真飛以外にも、真野すがた、祐澄しゅん、天宮菜生らが宝塚歌劇団を卒業した。宝塚では恒例のこととは言え、いつもさびしい限りである。
 千秋楽は、退団者が、帝国ホテル、東京會舘、新橋第一ホテルなどで関係者やファンの方とのフェアウエルパーティを開催する。在団生がその会場を回って挨拶するのも恒例だ。そこで在団生から紹介されるお話しの中に、厳しい指導をしながらも本当に下級生に慕われている生徒がいることが、舞台の輝きとはまた違って惜しまれ方の去る姿がある。そしてその中に綿々と受け継がれていく宝塚の伝統の重みを感じざるを得ない。
宝塚は不滅だなぁと実感し、これからも楽しみな生徒さんが間違いなく育ってくるのを期待したい。
 退団された生徒さんの今後の第2の人生の幸せを祈りつつ。

シゲニーイートン
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